私の音楽歴|チェロについて|岡山大学交響楽団|音楽関連リンク集|掲示板
2本以上の弦を同時に鳴らすことを、重音といいます。3本、4本の重音は、同時に音を弾けないので、2本ずつか1本と2本に分けて弾きます。2本の弦の重音の場合、基本的には1本の弦のみを弾く時と同じですが、弓の自由度が減るため、より安定したボーイングが求められます。
3本や4本にわたる重音は、移弦を伴うのでここでは述べません。しかし、2本の重音の弾き方と移弦を組み合わせることですぐに応用できます。
2本の弦を同時に弾く時、弓の毛は両方の弦に当たっています。重みも両方の弦にのっています。この状態で弓を動かすと、弓の軌跡は2本の弦のつくる面上に必ずのることになります。1本の弦のみ(単音)を弾いている時は、多少弓と弦の角度がずれても余り影響しませんが、重音の場合は、弓の軌跡が安定していないと2本の弦をバランスよく鳴らすことができません。
弓の角度は、2本の弦をそれぞれ単音で弾いている時のちょうど中間になります。手や肘の軌跡も、それぞれの弦を弾く時の中間を動かします。弦が4本なので、重音を弾く時の弓の角度は、3つになります。これに単音を弾く時の角度を加えて、7つのボーイングの角度があることになります。
2本同時にひくので、それぞれの弦に必要な重みをかけます。駒からの距離が同じでも、各弦で太さや張力が違うので、かける重さは同じとは限りません。張っている弦の種類・組み合わせにもよりますが、同じ種類の弦同士の場合は、太い方の弦に少しだけより重みをのせるようにするときれいに響くことが多いです。
弓の元と先でかける重みのバランスが変わらないことも大切です。重音のボーイングがきれいにできれば、単音のボーイングも安定します。出てきた音が安定した響きを持っているかをよく聞いて練習します。
チェロには、4本の弦があります。それぞれの弦を弾き分けるには、弓の角度を調節して弾きたい弦に当たるようにしないといけません。弓の角度を直接決定するのは、弓を持っている手です。手はそれ以外にも、弓に重みを伝える、弓を横に動かして弦を振動させるということを同時にしています。これらすべてを同時にできるような弾き方を考えてみます。
各々の弦上でボウイングの練習をするとき、手の動きは横方向のみです。手の動く軌跡は、どの弦を弾くかで大体決まってしまいます。この時に注意するのは、一定のスピードで安定した位置で安定した音を出せているか、音が痩せたりつぶれたりしていないか等です。
それぞれの弦を弾くとき、手の部分で弓の角度を変えないといけませんが、それだけではきちんと音を出すことはできません。弓に重みを伝えるには、弓を持っている指〜手のひらの丸みを保つことが必要です。そうすると、手首が低く落ち込むような弾き方はできなくなります。
また、弓を横に動かす時の角度も変わるため、肘の位置も各弦で変えることになります。
弦から弦へ弓が移動するとき、弓の角度は基本的にそれぞれの弦を弾くときの標準状態から標準状態へと移り変わります。移弦をするときも、重みはのせたまましないと音が響かなくなります。そうするためには、手・腕もその弦を弾くときの標準から標準へと移り変わる必要がでてきます。
チェロの弦は身体に対して斜めになっているため、移弦をする時にもそれなりの操作をしてあげないと弓と弦が直角にあたりません。具体的には、A線を弾くときには右腕ごと前方上方へ、C線を弾くときには右腕ごと斜め下後ろへ動かすという操作をします。この操作は、各々の弦を弾くときの角度をつなげたら自然にできるのですが、実際には上下運動のみで移弦しようとする場合が多く、意識しないとなかなか身につきにくいです。上記のように移弦をした時に弓がつくる面は、弦に対して垂直になります。
移弦をするときには、一弓で弾くときにも弓を返すときにも共通して気をつける点があります。
移弦をすると、弾いている弦の太さや張力が変わるため、同じ高さの音でも音質は変わります。曲を弾いているときには、これを逆に利用することもありますが、できれば音質を変えずに弾きたいけれどもどうしても移弦が入ってしまうこともあります。移弦の時にできるだけ音質を変えないように引ければ、こういう場合でも割と違和感無く演奏することができます。それぞれの弦の持つ特徴を生かし、かつ各弦のもつ音質に左右されない音を出せるように弓をコントロールするのが、移弦のテクニックです。
移弦をすると、弦の太さ・張力が変わるため、音の響きも必ず変わります。音量も、ただ弦を移っただけでは変わってしまいます。一本の弦を弾く時でも、A線とC線では重みののせ方がずいぶん違います。弦を移った時に、移った後の弦で出したい音量に見合うよう重み、スピードを調節するように気をつけて弾くことが大切です。
音量の項でも述べましたが、弦を移ると必ず音の響きが変わります。D線とA線など、時には露骨に音質が変わることもあります。これは楽器のせいもあるかもしれませんが、多くは弾き方でカバーできます。移弦をした時に激しく音質が変わるような場合、弓を腕の力で押さえつけて弾いていることが多いようです。こうすると楽器の響きを殺してしまい、それぞれの弦のもつ生の音質がよりはっきりと出てしまうのだと思います。楽器を十分に響かせて弾けるようになると、移弦をした時の違和感が少くなってくるはずです。右腕の重さののせ方の練習は、こういうところにも関係してきます。
移弦をする時には、弓の角度を変えます。このときには、弓を、弦に対して音を出す方向ではなくぶつかる方向に動かすことになります。この動かし方が激しいと、弓の毛と弦が当たった時に雑音が出ます。移弦をする時は、弦にぶつかる方向の動きをできるだけなめらかにすることで、この雑音を減らすことができます。
この項では、となりの弦への移弦のみをとりあげます。
隣の弦に移弦をする時の動きを時系列に並べてみると、次のようになります。
スラーの場合、3〜4の間も弓は弦を弾き続けています。弓を返す場合は、3〜4が返す瞬間の動きになります。このなかで、2〜5の動きが実質的な移弦の動きです。この部分をできるだけなめらかにするのが、移弦のこつです。3本以上の移弦の場合も、上記の動きを連続して行っているだけです。
スラーの場合、移弦の時に音が途切れないようにすることが最優先事項となります。
動きの分析の項で述べた移弦のときの動きをよくみてみると、一瞬だけ重音を弾いていることがわかると思います(3〜4の間)。聞こえるかどうかにかかわらず、この瞬間は存在します。移弦の時に一番大切なのがこの瞬間で、ここをていねいに弾くかどうかで移弦をした時の音が決まってしまいます。
開放弦で、必ずゆっくりから練習します。移弦の動作の時、間に重音が聞こえるように注意して弾きます。その時に、移弦の動作が肘からされていることも同時に確認します。はじめはぎこちないかもしれませんが、何回も練習するうちに段々と右肘の動きが丸く、なめらかになってくると思います。この動きを素早くくしていくと、段々スラーらしく聞こえてきます。素早くしていった時に衝撃音が出るようなら、またゆっくりから練習します。
今まで移弦がうまくいかなかった場合でも、重音の出る瞬間を意識するだけで音がなめらかにつながりやすくなります。
弓を返す時には、必ず弓の動きが止まる瞬間があります。移弦に弓の返しが伴う時は、この瞬間に移弦をします。タイミングが合わないと、弓を返す前に次の弦の音が出てしまったり、返した後に前の弦の音が残ってしまったりします。基本的にはスラーで移弦する時と同じなのですが、2つの作業を同時に行うために、まずスラーできちんと移弦ができている必要があります。
基本的には、スラーの移弦の練習方法と同じです。はじめのうちは、弓を返す時に必ず弓を停止させ、そのままで移弦の動作を行い、次の弦が弾けるようになってから弓を返して動かしはじめます。慣れてきたら、弓を停止させる時間を段々と短くしていきます。その時には、移弦した時の弓の当たり方がはげしくならないように注意してください。
弓を返しての移弦の時も、返す時の両方の弦に弓が当たっている瞬間を意識するだけで、かなりタイミングも合って雑音も減ってきます。
この項では、基本的にとなりの弦への移弦が連続して行われる場合をとりあげます。
移弦が3本以上の弦にわたって連続して行われる場合も、基本的にはとなりの弦への移弦の連続と考えられます。しかし、実際の動きは2本の間のみで行われる移弦とは若干違ってきます。分かりやすくするために、右手の動きを分解して考えてみます。
右手(手首から先)の動きは、大きく2つの要素に分けることができます。
演奏中の右手は、この2つの要素が絡み合って動いています。2本のとなり合った弦への移弦の場合、2.の要素はほとんどありません。関係する2本の弦の重音を弾く位置からのわずかな角度の変化のみで、移弦が成立してしまいます。これが3本になると、とたんに移弦方向への動きが大きくなります。少なくとも、そのうちの2本ずつの重音を連続して弾く時に必要とされる動より大きな動きが必要です。
このため、1.と2.の要素を同時に行うと、はじめのうちは動きがぎこちなくなる事が多いです。全体としてなめらかな動きができるようになるまでには、それなりの練習期間が必要になってきます。
練習方法としては、まず2.の移弦方向への動きのみを音を出さずに練習することをおすすめします。その時に、右手がなめらかに円弧を描くように動くようにすると、音を出したときにもスムーズに移弦ができます。ただ、となりの弦にぶつかる時に衝撃が少なくなるように注意することは、2本の弦での移弦の時と同じです。
次に、実際に音を出しての練習をします。1.と2.の動きを同時にするわけですが、感覚としては、4本の弦がつくるカーブの上をなめるように弓を動かすといったところでしょうか。良い表現が見つからないですが、意をくんで頂けるとありがたいです。
チェロには弦が4本あるので、場合によっては一弦あるいは二弦をまたいで移弦をしなければいけなくなる時があります。移弦と同時に弓を返す場合はまだいいのですが、スラーが付いていたりすると、現実的には演奏不可能か、無理やり隣の弦で音を出すことになります。ここでは、弓の返しと同時に行うとなりの弦以外への移弦を中心にして、書きます。
となりの弦への移弦の場合と同じように、
の二つの動きに分解できます。発音する方向への動きは、基本的におなじです。変わるのは、移弦する方向への動きが少し大きくなるくらいです。なるべく小さな動きで移弦するのを基本に考えれば、どの位大きくなるのかはすぐに分かります。
例えば、A線からG線に移弦する場合を考えてみます。一番G線に近い角度でA線を弾き、A線に一番近い角度のG線へ移弦すればよいのです。実際には、A−D線の重音を弾く角度からD−G線の重音を弾く角度へ移弦すると思えばよいです。重音を弾くのと同じ肘の高さでも、手首または指でコントロールして弾く弦を1本にすることは十分可能です。D線からC線、また上記の逆も、同じ考え方でできます。また、A線からC線も同様です。要は、できるだけ無駄な動きをなくすのがスムーズに移弦を行う秘訣なのです。
まず、重音から重音への移弦を練習します。この時の肘の動きは、できるだけなめらかになるように、弦が離れているからといって焦って直線的にならないように注意します。それがなめらかに出来るようになったら、弾く弦を1本ずつにして同じように練習します。弓の返しと同時に出てくることが多いので、返す時に一度弓を静止させて音を止めてから移弦のみを行い、また音を出しはじめるというような練習をはじめにするのも良いでしょう。基本的な練習方法は、移弦全般に関して共通です。
スラーで移弦をする場合、なめらかに移弦を行うことをまず重視しますが、そればかりだとタイミングがなかなか合いません。特に3本以上に渡る移弦の場合は、ずれが顕著になりやすいです。
タイミングをコントロールするためには、少し複雑なリズムでの練習が効果があります。複雑なリズムでゆっくりからていねいに練習することで、より正確に移弦のタイミングをコントロールできるようになります。必ず正確にできるテンポからはじめ、タイミングをいい加減にしないことが大切です。以下に、その譜例をあげてみます。
3本以上の弦にわたる時にも、同じようなリズムで練習をします。この練習をしたあとで普通に弾いてみると、今までの苦労が嘘のように楽に移弦のタイミングがコントロールできるようになっているはずです。しかもなめらかに。上記の譜例のようなパターンは、弾き方がいい加減になってきた時に使うと効果的です。覚えておくと便利だと思います。
移弦の時に弓の返しを伴う場合は、弓の返しと移弦のタイミングがずれることが問題となります。。特に、テンポが速くなったときはタイミングがずれやすいです。移弦が早すぎると次の弦が、移弦が遅いと移弦前の弦が、装飾音符のように音として出てしまいます。
これを解消するには、やはりきちんとタイミングが合うくらいのテンポからはじめて、それがきちんとできるようになってから段々とテンポを速くして練習するしかないです。このときもできるだけていねいに、いい加減なままでテンポを上げていったりしないことが大切です。