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チェロ奏法−演奏の前に


目次


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はじめに

楽器を演奏するにあたって

 一般的に「楽器」と呼ばれるものには、それぞれ大体の奏法というものが決まっています。どんな楽器でも、思い通りの音が出せればどんな奏法で演奏してもよいのですが、一から奏法を開発していくというのは凡人には到底不可能です。また、それぞれの楽器にはそれぞれの歴史があり、その歴史の中で試行錯誤の積み重ねによってよりよいものが選ばれ、伝えらえているのが現在の奏法です。一つの楽器に色々な流儀があるにせよ、楽器演奏の上達への近道の一つが正しい奏法の習得にあることは間違いありません。
 この一連のページに書いてある事項は、私が今まで経験し、師から教わり、また後輩(これも別名「師匠」という)から学んだことをまとめてあります。特に大人の初心者の方への参考となるような事項が多く含まれていると思います。大人になってからチェロを弾きはじめる人にとって、チェロを弾きこなすための筋肉の使い方を習得するのは容易なことではありません。しかし、毎日根気よく正しい練習をすれば、必ず上達するでしょう。ここでは文字と写真でしか表現できませんが、言葉尻にとらわれず、何を言おうとしているのか、その真意を考えながら読んでください。時には試行錯誤も必要であると思います。ご自分で新しい練習方法を開発してもよいですし、それがよい方法であれば、さらにほかの方にも広げていけばよいでしょう。現に、このページに出てくる練習方法の大半は、私が色々考え、試行錯誤を繰り返した結果で出てきたものです。大人は、頭を使って物事を習得するのが上達への近道だと思います。

楽器一般の性質

 一般的に「楽器」と呼ばれるものは、音を出すための道具です。
 音というのは、物理的には疎密波として私たちに伝わります。疎密波を発生させるには、ものを振動させる必要があります。楽器も、振動してはじめて音を発生します。電子楽器でも、「スピーカー」という振動部を持っています。電気的な増幅機構を持たない楽器(いわゆるアコースティック楽器)においては、その楽器自体をいかにしてうまく振動させるか、いかにして発生させた振動の邪魔をしないかが奏法の鍵となってきます。


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楽器の構造と奏法

基本的事項

 楽器は、大体のものが構造として2つの部分に分けられます。振動の発生部分と増幅部分です。発生部分でうまく振動を起こし、かつその増幅を邪魔しないような奏法が理想的です。
 話をわかりやすくするために、構造の簡単なトライアングルで考えてみます。トライアングルは、金属の丸い棒を折り曲げて三角形にし、それをひもでつり下げた本体部分と、金属の丸い棒でできたばちで構成されています。音を出すときは、本体をばちで叩きます。
 叩き方にも色々あります。叩いたあともばちをそのまま本体につけたままにすると、音はすぐ減衰してしまいます。叩いたあとでばちを素早く離すと、音は長い間響いています。
 ばちの離し方で、あとの響き方も変わってきます。叩いたときに本体は振動をはじめますが、ばちの離し方がゆっくりになれば、生じた振動を止めてしまうことになり響きが減ります。一番よく響く叩き方では、叩いた瞬間の一回目の振動の間のみ本体にばちが当たっていて、あとは離れているということになります。
 力を入れて叩いたら、一回目の振動のみでばちを離すことは人間には不可能です(何万分の一秒の世界)。楽器をよく響かそうと思ったら、叩いた瞬間にばちができるだけ自由に動けるようにして、叩いた反動で本体から離れるような運動をさせることが必要です。そのためには、ばちを持っている体の方も、できるだけ無駄な力を抜いてばちの自由度を大きくしてあげる必要があります。つまり、体がリラックスした状態で出す音が、よく響く音ということになります。
 トライアングルを例にあげて説明しましたが、これはどの楽器についてもいえることです。楽器の響きを邪魔しない奏法というのは、体がリラックスした状態に保たれてはじめてできるものです。自分の筋力のみでコントロールしようとせず、できるだけ重力、反動力などの自然の力をうまく使って楽器を演奏すると、楽器もそれに反応してよく響いてくれるようになります。

チェロという楽器

 チェロの弦を弓で弾くと、まず弦が振動します。その振動が胴体に伝わり、音が増幅されます。胴体に伝わった振動は、箱の部分で増幅されるだけでなく、箱以外のヘッド〜ネックにかけてやエンドピンも振動させます。その振動は、再び弦自身にも返ってきます。弦楽器では、音を出すときに振動部(弦)と弓毛とが接触したままになっています。この状態で、どうやったら振動を邪魔せず楽器を響かせることができるかを考えてみます。
 弦の振動を起こすのは、弓毛と弦のあいだに生じる摩擦力です。摩擦力が生じるためには、弓毛と弦の接触点にある程度の力がかかっていなくてはいけません。この力として、一つは弓の重さによる重力があります。チェロの弓の場合は80グラム前後の重量がありますが、この程度では弦は振動してくれません。弓を持っているのは手指ですから、ここから何らかの力を加えることになります。手指から加えるこのできる力は、(1)腕の筋肉による力、(2)手首の筋肉による力、(3)肩の筋肉による力、(4)腕自身の重さによる重力くらいでしょうか。このなかで(3)と(4)は両立しません。肩の力を抜かないと、腕自身の重みが弓に伝わらないからです。振動に対する自由度を考えると、肩の筋肉で弓を押さえつけるよりも、腕自身の重さを使って弾く方がよりよいのは明確です。重力というのは力の一種ですが、ものを固定するようなものではないために、振動を直接妨げたりはしないのです。(2)(3)の力については、腕をある程度支えて弾くときの形を維持しないといけないので、そのための力は必要になってきます。ただ、これも弦を押さえつけるような力の入れ方をしていると、胴体から返ってきた弦の振動を止めてしまうことになります。
 体とチェロの接触点は、他にもあります。左手の指は、音高を変えるために使うため、指板、弦と接触します。左手の指先は弦の振動の「節」になるため、しっかりと指板についていなければいけません。一方、指板も振動しているため、その振動を妨げるような押さえ方では響きを妨げてしまいます。この両方を実現するためには、やはり肩の力を抜いて腕にかかる重力で押さえることが必要です。

人間の身体

 人間の身体は左右対称ではありませんが、左右に極端なアンバランスのある状態では安定できません。例えば、片側の肩のみに力を入れてみて下さい。気がついたらもう一方の肩にも力が入っているはずです。逆に、片方の肩の力を抜くためには、両肩の力を抜くよう意識すれば簡単にできるものです。チェロを弾くときは、両肩ともリラックスした状態にしておくことが必要なので、人間の身体の構造からみると理にかなった楽器といえるでしょう。


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楽器演奏と呼吸

呼吸とは

 人間をはじめ、地球上の生物と呼ばれるものは、みな「呼吸」という動作をしています。化学的には、大気から酸素を取り入れ、それを体内でエネルギーに換えて二酸化炭素を放出するという行為です(一部無酸素呼吸をする生物は除く)。人間においてもその化学的意義は同じですが、呼吸の為の動作等、生物学的観点においてはそれ以上の意義を持っています。
 呼吸は、その時々によって色々な状態がありますが、それを決定する要素として次のようなものが考えられます。

  1. リズム
  2. 息の速さ
  3. 息の深さ

大きく分けるとこのくらいでしょうか。
 あと、呼吸を動作としてとらえると、その時々で次の4つの動作の繰り返しであると考えられます。

  1. 息を吸い込んでいる
  2. 息を吸いおわる
  3. 息を吐いている
  4. 息を吐きおわる

このそれぞれの要素がどのような意味を持つのか、少し考えていきます。

呼吸の状態を決定する要素

 人間は、意識しなくても呼吸をしています。これは、自律神経の働きで無意識に腹胸部の筋肉を動かしているためです。呼吸の状態は、その時の身体の状態でかわってきます。寝ているときと走った後では、状態が全く違います。これは、身体に必要な酸素量を得るために無意識に調節機構が働いているためです。身体的な運動量だけでなく、心理的な要因でも呼吸の状態は変化します。例えば、何かにびっくりした後や、恐怖感を持つようなことがあれば、呼吸のリズム、速さ、深さのどれもが安定しなくなり、呼吸が「荒い」状態になります。
 これとは別に、ある程度は自分で意識的に呼吸の状態を変化させることもできます。意識的に呼吸を変化させると、今度は逆に身体的、心理的な状態をかえることができます。例えば、深呼吸をしてみてください。ゆっくりと、深く息を吸い込んで、それをまたゆっくりと吐き出す動作を繰り返していると、心理的に落ち着いてきます。また、身体もリラックスした状態になっていきます。

呼吸のための一連の動作

 呼吸という動作を時間軸でみてみると、息を「吸っている」時と「吐いている」時とに大きく分けることができます。
 深呼吸をしてみてください。身体が緊張するのはどちらの時でしょうか。大抵の場合は、「吸っている」時のほうが緊張していると思います。また、息を吸う動作から吐く動作に移る時は、間に必ず息を止めている瞬間(吸いきった状態)が入ります。吐く動作から吸う動作に移る時にも、その瞬間(吐ききった状態)があります。この場合では、吸いきった状態のほうが身体の緊張度が高くなります。
 以上のように、一般的に、身体の中に入っている空気の量が多いとき、また多くなる方向に向かっているときには緊張が高まり、空気が少ないとき、減る方向に向かっているときには緊張が弛む傾向がみられます。これは、肉体的状態にも精神的状態にもあてはまります。

楽器演奏と呼吸の影響

 一般的に楽器を演奏するためには、身体が楽器の響きの邪魔をしないような状態にする必要があります。身体全体が緊張した状態にあると、どうしても響きを邪魔してしまうので、できるだけリラックスした状態で演奏したいものです。この時に重要になってくるのが「呼吸」です。音を出す前に深く息を吸って、吐き始めると同時に音を鳴らしてみてください。深くて大きい音が出るはずです。逆に吸い始めると同時に音を鳴らすと、ふぬけた音が出てくるはずです。
 管楽器は息を吐きながらでしか音を出すことができないので、この点では非常に合理的といえます。弦楽器でも、ここぞという音を出すときに息を吐くようにすると、楽に音が鳴ってくれます。曲を演奏する時には色々な音色を出す必要が出てきますが、音楽の頂点の前に息を吸い、頂点のところで吐き出すようにすることで音楽の表現もしやすくなります。

弦楽器の呼吸

 前項にも書きましたが、弦楽器を演奏する時にも、声楽や管楽器の演奏時と同様に呼吸が大切です。しかし、息の流れで直接発音するわけではないので、その扱いが難しくなってきます。実際に音を出す原動力となるのは腕〜指の動きであり、それが息の代わりを果たさないといけないからです。
 呼吸という動作は自然発生的ですが、腕の往復運動はそうではありません。これで呼吸を表現するのですから、管楽器などとはまた違ったそれなりの訓練が必要になります。しかし、呼吸という動作そのものをうまくコントロールすることによって、腕による呼吸の表現を助けることは可能です。逆に呼吸を利用しないとうまく表現できないというのが本当かもしれません。
 この点を逆手にとると、管楽器や声楽よりも弦楽器の方がやりやすい表現もでてきます。息を吸うとき、すなわち「アウフタクト」と呼ばれる時の表現です。日本語に訳すと、「弱起」の音楽のはじめにあたると思います。音楽が弱拍から始まって強拍に達するまでの表現は、弱拍部分で息を吸って強拍の準備をし、強拍のところで息を吐きはじめるという流れになることが多く、息を吸いながら発音できる楽器の方が絶対的にやりやすいです。
 以上のように、弦楽器演奏時においても呼吸は非常に大切です。実際の呼吸と腕による呼吸表現とが密接に絡み合い、自由な表現ができるように努力しましょう。


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