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チェロ奏法−左手3


目次


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ポジション移動の基本

はじめに

 ポジションという概念は、左手1フィンガリングの実際の項目内で述べました。単一のポジションのみで弾ける音階も、左手2のページに数例あげました。チェロの運指は、基本的に1〜4指が半音間隔ですので、今までに例示したような単一のポジションのみで音階を弾く場合には、開放弦を使うことになります(親指を使った場合は話が別です)。しかし、実際に演奏する場合はいつもいつも開放弦を使うわけにはいきません。開放弦の音を音階に含まない調も多いです。そういった場合には、音階を弾くときでさえポジションの移動を要求されます。
 スムーズにポジション移動をするためには、まず左手1フィンガリングの基本の項目内にあるような弦の押さえ方を習得する必要があります。左腕はできるだけいらない力を抜いて、その重みでおさえます。指は、しっかりと重みを支えますが、それ以上には無理に弦を押さえようとせず、できるだけ自由に動けるようにします。
 ネックを握る力で弦を押さえてしまうと、ポジション移動のたびに指を弦から離すか、無理やり握ったまま移動させるかのどちらかしかできません。これでは、ポジション移動をするだけで莫大なエネルギーを消費してしまいます。ネックを引っ張って押さえている場合も同様です。
 ポジション移動をする場合も、無駄な力を入れないことが基本になります。

基本的な動き

 ポジション移動をするとき、移動後に目的の音を押さえるわけですが、その音程さえ正しければよいというものではありません。ポジション移動時の注意事項をいくつかあげてみます。

  1. 左手指への重みののせかた
  2. 移動のなめらかさ
  3. 音程の正確さ

 目的は3.の音程を正確にとることなのですが、それをスムーズに、音楽的にするためには1.2.の項目も同時に気をつける必要があります。2.の移動のなめらかさは、音楽的表現をする上では必須です。1.の重みののせかたは、移動をなめらかにするために必要な基本的事項です。
 ポジション移動をしたあとでも左腕の重みをきちんとのせるには、左腕の形・位置をそれぞれのポジションに合わせて変える必要があります。例えば、第一ポジションから第四ポジションに移動するときに肘の位置を変えなかったらどうなるでしょうか。試してみればすぐにわかりますが、この状態では移動後に左腕の重みがきちんと乗りません。また、音程もそんなに正確に取れているわけでもありません。しかし、初心者が移動後の音程のみをとりにいくと、たいていはこの状態になってしまいます。このとき、肘を少し下(正確には指板に平行な方向)にずらしてみると、無理なく重みが乗るようになります。
 次に、移動後の音程ではなく肘の位置を主に注意しながらポジション移動をしてみます。言い換えれば、肘でそれより先の手〜指を押す形になります。この場合は、到達した音程は不正確ですが、移動がなめらかで移動後の押さえもしっかりします。
 音程が不正確なのは同じなのですから、移動がなめらかで移動後もしっかり押さえられた方がよいのはお分かりでしょう。肘の位置を変えた結果として手〜指が目的のポジションに到達するようにするのです。音程の正確さは、何回も練習した結果として得られるものです。
 ポジション移動は、基本的には左腕の重みをのせた状態で行います。そのことを前提に、以下にポジション移動の動きを分解してみます。

  1. 左肘を目的のポジションに向けて動かしはじめる
  2. 1.に従い、左手〜指が移動しはじめる
  3. 左肘が目的のポジションに到達する
  4. 左手〜指が目的のポジションに到達する
  5. 左手指で正確な音程に合わせる

 上記の1.〜5.を連続してスムーズに行っているのが、実際のポジション移動です。
 実際にはこれだけではなく、移動時のスピードも大きく影響してきます。スピードについては、一般的な加速−減速の原理に従えばうまくいきます。電車の出発〜停止を考えるとよく分かるでしょう。始めはゆっくり加速、移動中は比較的速く、到着前は徐々に減速します。

ポジション移動のための予備練習

 左手1左腕の重さののせ方の練習の項目内に、左腕をネックにぶら下げる練習方法を書きましたが、この練習を応用することでポジション移動の予備練習とすることができます。
 まず、第一ポジションで左腕をネックにぶら下げます。次に、手〜指の位置はそのままに、肘を少し低い位置(正確には指板に平行な方向)にもっていきます。そのあとで、手〜指を肘に対応する低い位置へ移動させるのです。移動させたあとも、腕の重みがきちんとのった状態に保つように注意します。この動作の間は、腕の無駄な力は抜いて手〜指に重みがのったままの状態にしておきます。
 次に、上記の状態を元の第一ポジションに戻すための練習をします。動作としては、先ほどと基本的には同じで、肘の高さが移動後の方が高くなるだけです。まず、肘を少し高い位置(正確には指板に平行な方向)にもっていき、そのあとで手〜指を肘に対応する位置へ移動させます。
 無駄な力を抜いた状態で上記の練習を繰り返すことで、ポジション移動に必要な最も基本的な動作を覚えていきます。
 これがある程度できるようになってから、指を弦上に並べて同じ練習をします。注意点は基本的に同じですが、並べた指が駒の方へ倒れて指先を引きずるような形での移動だけはしないようにしてください。これをすると、腕の重みが指先まで伝わらず、弦をしっかりと押さえることができません。特にポジションが上る(駒に近づく)時には注意が必要です。感覚として、ポジションが上がるときは手のひらで押す、下がるときは手の甲から引っ張るような感じになります。


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ポジション移動の実際1(ネックポジション)

はじめに

 ネックポジションとは、左手の親指を基本的にネックの下に置いたまま弾けるポジションのことです。具体的には、ハーフ〜第四ポジションあたりまでのことを指します。
 ネックポジションのポジション移動では、大抵の初心者はネックを指でつまんでそのまま移動しようとしてしまいます。弦を押さえるのに指に力が入ってしまうためにそうなるのですが、これを解消するのには、ネックの裏側にある親指がキーポイントとなります。ネックポジションでのポジション移動の練習は、親指の使い方の習得が大きな部分を占めます。
 親指とも関係があるのですが、ポジション移動をすると、そのあとで手首が低く落ちてしまっている場合もよくみかけます。手首が低く落ちているときは、親指に力が入ってネックをつまんでいると思って間違いないでしょう。ポジション移動で腕に力が入り、その影響が残っているのだと思います。

左手の親指の役割

 弦を押さえるのにネックを表裏から力を入れて挟んでいては、ポジション移動はなめらかにはできません。かといって、ネックから離していればそれで良いわけでもありません。力を入れずにネックの裏側に添えるのが基本です。
 チェロを弾いている時の手の状態を考える前に、手の自然な状態について考えてみます。手を普通に握ってみてください。大抵の方は、親指が中指の向かい側か人指し指の側面に位置しているはずです。その握った手の力を抜くと、自然に少し手が開きます。この時の手は、力を抜いた自然な状態になっています。チェロを弾くときの左手の基本的な形は、この力を抜いたときの手の形になります。
 先ほど、親指の位置が2つのパターンになることを書きましたが、それぞれ中指に向かい合う形がネックポジション、人指し指の側面にくる形が親指ポジションでの手のかたちの基本となります。
 ポジション移動の時には、まず肘の位置をそのポジションの位置に移動させるように意識すると書きましたが、現実にはこれだけではなかなかうまくできません。そこで、親指の登場となります。親指は、他の4指とくらべると地味な存在です。弦を押さえているわけでもなく、長さも短いです。しかし、長さが短いと言うことは、他の指に比べて指先が肘に近いことになります。また、他の指と向かい合っており、その位置も4指のまんなか辺りにあります。ということは、他の4指の位置を決めようとするとき、親指の位置を先に決めてあげれば自然に手全体の位置が決まってきます。逆に、4指の位置を先に決めようとすると、親指が取り残されることが多くなり、結果として手の形が崩れてしまい弦をしっかりと押さえることができなくなってしまいます。
 このように、左手の親指は他の4指のガイド役という重要な役割をもっています。親指に力が入っていては、このガイド役を果たすことは難しいです。そのためにも、ポジション移動のない音階練習などの時にも親指の事まできちんと気をつけて練習し、左手の無駄な力を抜くよう努力が必要です。

1本の指でのポジション移動の練習

 実際の演奏時のポジション移動は、移動前と移動後とで弦を押さえる指が違うことが多いです。前後の音楽的な流れなどからどの指で押さえるのか、どのポジションに移動するのかを判断し、それによって左手の動きが決まってきます。しかし、その動きの中核となっているのは、ポジションからポジションへの肘〜手の移動です。目的のポジションに移動してしまえば、あとは自然に音がとれるからです。移動後の音程の微調整は、耳で聞いて判断すればよいのです。
 基本的な動きの練習をする場合は、動きをできるだけ単純化したものから始めたほうが一つ一つのことを身につけやすいと思います。ポジション移動においても、始めは移動前と移動後の弦を押さえる指を同じにして練習をした方が、最も基本的な動きを身につけやすいと思います。

ポジション移動練習用グリッサンド楽譜

Real player G2

 例として、上記のような音の動きをあげてみます。この場合は2の指のみで、音と音の間にグリッサンド様の音を故意に入れます。始めは左手のみで、そのあと右手と一緒に、非常にゆっくり(二分音符=30位)から音符の後ろ半分にグリッサンドをかけるよう練習するのが良いでしょう。ゆっくりの速度でなめらかにできるようになれば、段々と速くしていきます。
 2番指でのポジション移動を例に挙げたのは、親指との関連で練習しやすいという理由があります。ポジション移動をゆっくりから始めるのと同時に、親指も2番指と一緒にポジション移動させることを忘れてはいけません。はじめのうちは、むしろ2番指より先に(肘の移動の次に)移動を始めるように意識した方がよいでしょう。
 この練習をするときに注意するのは、2つの音の「間にある音」をよく聞きながら移動するということです。例えば最小の2小節では、2つの音の間に「F#,G,G#,A」という4つの音がありますが、移動中に自分の出している音をよく聞いて、現在どの音のあたりを移動しているのかを認識しながら弾くのです。こうすると移動先の目標点が分かりやすくなるため、ポジション移動がスムーズにしやすくなります。ポジション移動を自動車の発車と停止にたとえると、急発進や急停止をしないようになってくるのです。また、ポジション移動時のスピード感を耳で確認できるため、なめらかにできているかどうかの判断を自分自身でもつけやすくなります。
 この譜例にあげた移動だけではなく、同じようなことをほかの弦や指でも練習する必要があることは言うまでもないと思います。


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音階の基本4

ニ短調(実質的なポジション移動を伴う音階)

 ニ短調の音階は、一見ポジション移動を伴わないように見えますが、1カ所だけ実質的にポジション移動している箇所があります。第一ポジションの標準形の他に、2〜4指を半音上げた形の拡張形が出てくるからです。この音階では、第1指を半音下げた形の拡張形も出てくるため、2つのポジションと2つの手の形をスムーズに変化させるための練習にも使えます。

d−moll音階楽譜

 上に示した楽譜の中で、指番号に*が付いているところが、第一ポジションの標準形から指をずらす必要がある箇所です。上行形は2〜4指を半音上げる形、下行形は1指を半音下げる形になります。
 2〜4指を半音上げた形は、肘の位置でいうと第一ポジションより半音高いポジション(1.5ポジションともいう)になり、標準形から移行するには実質的に半音分のポジション移動をすることになります。これは、1本の指でのポジション移動の練習の項目に出てくる楽譜の最後の2小節での移動分にあたります。実際には、人指し指の位置を動かさずに半音分のポジション移動の練習をしていくと良いと思います。移動の際に親指を先行させるよう意識することなど、注意点は同じです。
 下行形のときの1指を半音低くする場合では、ポジション移動の必要はありません。音階の基本3で述べたのと同じパターンです。


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音階の基本5

ヘ長調(ネックポジションでの移動を伴う音階)

 ヘ長調の音階を2オクターブ弾くためには、最後の2〜3音でどうしてもポジション移動が必要です。

F−dur音階楽譜 

 上の楽譜で、”〜”のところにポジション移動が入ります。2種類の指遣いが書いてありますが、括弧のない方が第一ポジションから第三ポジション、括弧の付いた方が第一ポジションから第四ポジションへの移動となります。
 音階の中でポジション移動が出てくる場合、大抵は移動前と移動後で弦を押さえる指が違います。このヘ長調の音階でも、両方のパターンともそうなっています。ポジション移動の基本的な動作は、一本の指でのポジション移動の練習のときと同じです。あとは、ポジション移動と指を換えるという行為をどうやって組み合わせて行えばよいかということになります。

ポジション移動時の指の動き(前後で指が交差する場合)

 上記の音階を弾くときのようなポジション移動時の動きを、指に焦点をあてて分解してみます。上の楽譜で、A線のC〜D,D〜Cでポジション移動を入れる場合で考えてみます。

上昇時

  1. 第1指を、Cを押さえている第2指に近づける
  2. 第2指を第1指と置き換える
  3. 置き換えた第1指をDまで移動させる

下降時

  1. 第1指をDからCに移動させる
  2. 第2指を、Cを押さえている第1指に近づける
  3. 第1指を第2指と置き換える

 上記のように、上昇時は移動後の指で、下降時は移動前の指でポジション移動を行うのが基本です。もちろん、例外もたくさんありますが、大抵の場合はこれでうまくいくはずです。移動中も移動後も、基本的な手の形が崩れないように注意しながら練習することが大切です。また移動後に第1指以外の指で弦を押さえるような場合(さっきの例では下降時にあたる)は、押さえている指よりも第1指に近い指のすべてがそこのポジションの定位置にあるように注意することも大切です。ポジション移動は、一つの音のためだけにするのではないからです。移動後に、他の指でも正確な音程をとれないといけません。

ポジション移動のための分解練習

 ここでも、上記の例で述べていきます。第一ポジションから第三ポジションに移動するわけですから、まず一本の指でのポジション移動の練習をします。ここでは、第1指でするのがよいでしょう。移動の量とすれば、これでよいわけです。
 これができるようになったら、よりスムーズにポジション移動ができるよう、動きをもっと分解していきます。前項目で指の動きを分解しましたが、それを一つ一つできるようにするのです。具体的には、指を置き換える練習と、一本の指での移動の練習をします。この場合の指を置き換える練習は、実質的には半音分のポジション移動にあたります。この2つを組み合わせる事により、一本の指での移動距離が短くなり、よりスムーズなポジション移動が可能となります。
 この動作を習得するコツは、左手の指の動きと肘の動きをある程度独立させた上で連動させるところにあります。肘の動きは、一本の指でポジション移動をしているときと同じ動きです。それをしながら、指は置き換えと移動をスムーズにこなすのです。一つ一つの動きを確実に習得すれば、組み合わせてもそう難しいことではないです。

より長い距離のポジション移動

 今度は、上の楽譜の括弧内の指遣いの時を考えてみます。第一ポジションから第四ポジションへの移動となり、距離がより長くなりますが、基本的には先ほどと同じです。
 あらためて指の動きを分解してみると、

上昇時

  1. 第1指を、Dを押さえている第4指に近づける
  2. 第4指を第1指と置き換える
  3. 置き換えた第1指をEまで移動させる

下降時

  1. 第1指をEからDに移動させる
  2. 第4指を、Dを押さえている第1指に近づける
  3. 第1指を第4指と置き換える

となり、第一〜第三ポジションへの移動の時と基本的に同じです。練習方法も、置き換える指とずらす場所が違うだけで、前述のポジション移動のための分解練習を利用すればよいです。

第四ポジション

はじめに

 いきなり第四ポジションだけを取り上げますが、このポジションは非常に重要であると感じますので、あえて単独の項目としたいと思います。
 第四ポジションとは、楽器と手の位置関係でいうと、大体ネックの付け根に親指をあてた状態の位置にあたります。第一〜第三ポジションとは、位置が違うだけで基本的な手〜指の形は同じです。しかし、第四ポジションより高い音のポジションになると、親指の位置や手・指の形が若干違ってきます。そのつなぎ目となるポジションが、第四ポジションであると思います。

位置の決め方

 前述したように、大体ネックの付け根に親指を置いてあとの4本の指を弦の上に並べた位置になります。音で言うと、A線の場合、1指がEになります。楽器によって若干のずれがありますが、大体これで音は取れるはずです。
 第四ポジションの位置を決めるとき、よく「横板に手が当たるところ」まで移動すれば良いといわれることがあります。確かにこれでも音は取れるのですが、これではヴィヴラートもかかりませんし、そこより高いポジションにいくのも「ヨッコイショ」という感じで一苦労です。なにより、押さえている手の形が崩れてしまいやすいのが最大の難点です。第四ポジションも、ネックポジションのひとつです。第三ポジションまでと同じように、肘と親指の位置でポジションを決める癖をつけていったほうが良いと思います。
 先に述べた位置より半音高いポジションも、第四ポジションと呼ぶことが多いです。1〜4指の位置は半音分高くなりますが、親指はそれ以上高い音の位置には動けません。この場合は、肘で半音分の移動をすることになります。手の形自体も若干かわりますし、ひじの高さを少し高くしてあげないとボディに当たってしまいます。実際には、この半音高い第四ポジションが、ネックポジションとそれ以上のポジションとのつなぎ目にあたるといえます。


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