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左手の手の形は、大きく分けてネックポジション(親指がネックの下側に位置する)と親指ポジション(親指が指板の上に位置し、他の4指と同じように弦を押さえる役割をもつ)の2つに分けることができます。親指ポジションは、特に第7ポジション以上の高いポジションで使うことが多いのですが、それより低いポジションで使うこともあります。ネックポジションと違うのは腕〜手の形のみで、弦を押さえるときの重みの乗せ方などは同じです。ただ、低いポジションで親指を使う場合、肘が高い位置に上がるため、慣れるまでは重みが乗せにくいかもしれません(下図・写真を参照)。
ネックポジション(4th) |
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親指ポジション(low) |
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親指ポジション(high) |
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実際に弦を押さえる前に、手の形のみをつくる練習をすることをおすすめします。弦を押さえることで弦からのストレスが指にかかり、いきなり親指を使って押さえると形がくずれやすいからです。
まず、左手を握って拳骨をつくります。このとき、親指はどこにありますか?親指ポジションの時の手の形は、人指し指の側面に親指が来るように握った形と同じになりますので、そうして下さい。そして、この形で手の力を抜いた状態にすると、少し手が開きます。親指のある側から手を見ると、円筒のような形に見えます。この状態の手を弦の上に載せると、親指ポジションの基本的な手の形が出来上がります。
指を弦の上に載せたときに、いくつか気をつけるところがあります。
つまり、基本的にはネックポジションの時とほとんど同じようなことに注意すればよいわけです。
チェロを弾くとき、右手は弾く弦によって腕・肘の高さが違います。弾く弦をかえることを「移弦」といいますが、左手にもこの移弦は存在します。左手にも移弦が存在するということは、一般的にはあまりはっきりとした言い方をされることは少ないです。しかし、実際には右手と似たような動きで押さえる弦を変える必要があるので、これを「左手の移弦」と呼んでも差し支えないと思っています。但し、左手は一度に4本の弦を押さえることができたりしますので、重音を弾くときなどにはより自由な動きが必要となりますので、右手よりも基本的な形が崩れる場合は多くなります。
左手で押さえる弦を変えるとき、以下の3つの方法が考えられます。
1.は、A線を押さえるときは手首が凹み、C線を押さえるときには手首が突き出るというスタイルです。この場合は、ネックを中心として手首を回転させて押さえる弦を変えています。
2.は、A線を押さえるときは体が左に傾き、C線を押さえる時は右寄りに傾くというスタイルです。この場合は、肘を左右に往復させて押さえる弦を変えています。
3.は、A線を押さえるときには肘が後下方へ、C線を押さえるときには肘が前上方へ動くスタイルです。この場合は、ネックを中心として腕全体を回転させて押さえる弦を変えています。
実際に演奏する時は、上記の3つを組み合わせて演奏するのですが、その中で最も基本となるのが3.の方法です。右手の移弦を腕全体で行うように、左手も腕全体で「移弦」を行います。この方法では、A線を弾く時には右手が前方へ・左手が後方へ行き、C線を弾くときには右手が少し後方へ・左手が前方へ行くので、少し体をねじることになります。しかし、弓を端から端まで使おうとするときには、これがかえって合理的な動きとなって先弓でのボウイングを助けてくれます。
以下に、各弦を押さえているときの腕の形を絵で示します。
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肘の位置に注目してください。I弦→IV弦へと移動するにつれて、前方に出ると同時に位置が高くなっているのがお分かりいただけると思います。これは、ネックを中心として腕を回転させているためで、押さえている弦を変えてもポジションがずれないようにするために最低限必要な動きです。チェロの寝かせ方によって動く角度は変わりますが、動き自体が水平や垂直でないため、初心者には少し難しいかもしれません。
初心者では、肘の動きが水平方向になってしまい、I弦を押さえるときはポジションが少し高く、IV弦の時は少し低くなるというようなことがよくあります。それとは逆に、肘の動きが垂直方向になってしまうこともあります。C−durの音階練習をするときなど、音程と同時にこの肘の動きにも注意しながら練習をする必要があります。できるだけ鏡を利用して練習しましょう。
弦楽器を演奏する上で、様々な音楽表現をしようとする時に欠かせないのがこの「ヴィブラート」という技術です。ヴァイオリン族の楽器では当たり前のように使われますが、一口でヴィブラートといっても何種類かの方法があり、その時々で表現に合わせて使い分けをしなくてはいけません。また、いつでも使って良いテクニックではなく、ところ構わずヴィブラートをかけているとただの悪趣味に聴こえてしまったりもします。必要なところで必要なテクニックを必要なだけ使うのが、音楽表現の上では一番大切です。
私自身は、ヴィブラートは身体全体の無駄な力が抜けた状態で演奏できるようになってから習得すべきであると考えています。それができていない段階でヴィブラートをかけようとすると、往々にして筋肉を緊張させることで生じる痙攣を利用した、いわゆる「ちりめんビビラート」しかできないことが多いからです。このちりめんビビラート、音楽表現をする上ではまず使い道が無いと言って良いでしょう(現代の音楽は知らないですよ)。また、一度習得してしまうと癖がなかなか抜けず、きちんとしたヴィブラートの習得の妨げになってしまうこともしばしば。使えるに越した事はないですが、ある程度楽器が弾けるようになってからのテクニックとして、焦らず気長に習得すべきだと思います。
ヴィブラートは、上肢を揺らして指先にその動きを伝え、音程を周期的に微妙に変化させるというテクニックです。上肢は、体幹部には鎖骨を通してつながっています。体幹部に近い方から動かせる関節をあげてみると、胸〜肩〜肘〜手首〜指といった部分があります。
ヴァイオリンでは、よく「肘ヴィブラート」「手首ヴィブラート」「指ヴィブラート」という3種類のヴィブラートを組み合わせて使い分けるということがいわれます。これは、どこの関節を揺らすかで名前が付いているようなのですが、揺らす部分が体幹部に近くなるほど、周期はゆったりと、振幅は大きくしやすいという傾向があります。チェロのヴィブラートも、こういった種類分けができるのではないかと思います。ヴァイオリンに存在する3種類に、鎖骨が自由なチェロにはさらに「肩ヴィブラート」の、合わせて4種類。こうやって種類分けして考えると、習得も少しは楽になるのではないでしょうか。
ものを揺らすためには、支点が必要です。指先と体幹部は一応固定されていますので、その間にある関節の何処を支点にして何処を揺らすかが問題になってきます。先に挙げた4種類について、表にしてみました。
ヴィブラートの種類 |
支点 |
揺れる関節 |
肩ヴィブラート |
胸関節 |
肩・肘・手首・指 |
肘ヴィブラート |
肩関節 |
肘・手首・指 |
手首ヴィブラート |
肘関節 |
手首・指 |
指ヴィブラート |
手首関節 |
指(手の甲) |
支点が体幹部に近くなるほど多くの関節が揺れるわけですが、揺らそうと意識するのは太字で書いた関節です。そして、その関節がそれぞれのヴィブラートの名前となっているのです。
一番習得しやすいのは、ネックポジションでの肘ヴィブラートでしょう。このコツさえ習得すれば、同じような方法で他の種類のヴィブラートも習得しやすくなります。
(絵1)(絵2)
上の(絵1)は、左腕の重さののせ方の練習をするときにも示したものです。肘ヴィブラートの習得は、まずここから始めます。
左腕を脱力してネックにぶら下げた状態で、肩を支点にして肘を揺らしてみます。揺らす方向は、ネックと平行にします。揺らす時には、各関節に無駄な力が入って硬くなっていないことを確認しながら、ゆっくりと行います。はじめのうちは、揺らすことで腕のどこかに力が入ってしまいぎくしゃくした動きになりがちですが、根気よく無駄な力が抜けてなめらかに動くまで練習します。この動きを身につけさえすれば、肘ヴィブラートは出来たも同然です。同様にして、胸を支点にして肩をネックと平行な方向に揺らす練習をすることで、肩ヴィブラートの動きも習得できます。
実際に演奏するときには、同じ動きを弦上に指を置いた状態(絵2)ですれば良いわけです。ただ、はじめからその状態で練習すると、指先というとても小さな部分に大きな力がかかってしまい、腕全体にも力が入りやすくなってしまいます。手のひらという大きな部分で支えながら動きを練習するという段階を踏むことで、ヴィブラートへの階段を少しでも昇りやすくできるのではないかと私は考えています。
肘ヴィブラート・肩ヴィブラートを習得した段階で、次は手首ヴィブラートの習得です。これは、上記(絵2)の状態でしか練習できません。無駄な力が入らないように注意しながら、肘を支点にして手首をネックと平行な方向に揺らす練習をゆっくりから行います。この時に気をつけるのは、絶対に「ちりめんビビラート」にならないこと。力が入ってしまったらまず抜く、そしてまた揺らすという根気のいる練習が必要です。同様にして、手首を支点にして手の甲をネックと平行な方向に揺らす練習で指ヴィブラートも習得できます。
ヴィブラートの習得は、とにかく急がないこと。根気よく練習を積めば、必ずや美しいヴィブラートを身につけることができると思います。