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擦弦楽器(弓で弦を擦って音を出す楽器)の演奏をする上で、音を出す基本となるのが右手のテクニックです。音を出す方法は、普通「弓で弦をこする」「指で弦をはじく」の2つがあります。弓で弾くのを”arco”、指ではじくのを”pizzicato(pizz.)”といいます。とちらも発音は右手を使うため、右手のテクニックがしっかりしていないと、楽器をよく響かせることは困難になってきます(たまに左手を使うこともあるが、それは例外)。音の強弱・音色の変化・音のつながり・スピード・リズムなど、音楽を構成する重要な鍵を握っているのが右手です。これは、擦弦楽器全般に言えることで、チェロに限ったことではありません。
(たまに左手に弓を持って弾く人−例:チャップリン−がいますが、その人の場合は、左手と右手を入れ換えてこのページを読んで下さい。)
チェロを構えたときに、両肩・両腕・両手の力を抜くことができるかを確認します(参照:構えかた)。チェロを持つ前の座った状態でできていても、持ったとたんに力が入ってしまうこともあります。この脱力の状態は、チェロを弾いていく上で最も重要な要素の一つになってきますので、早いうちに身につけておいたほうが後々楽です。
弓には、馬の尾の毛が張ってあります。これに松脂をつけて、弦と直角となるように弦の上に置きます。このまま弓を横に動かすと、弓の重みで馬毛と弦に摩擦が生じて音が出ます。しかし、弓の重みだけではほとんど音は鳴りません。そこで、腕の重みものせて横に動かすと、弓だけの時よりも格段に大きく、よく響く音が鳴るようになります。重みをのせると一口に言っても、これがチェロを弾く上で一番大変なことで、練習の半分以上はこれに費やされるといっても過言ではありません。
まず、弓の元の毛箱のあたりを毛が下にくるようにして握ります(普通に弾くような持ち方ではありません)−写真(1)。この状態で弦の上(駒から2〜3cm指板寄りのところ)に弓(なるべく元の方)を置きます−写真(2)。C線でするのがやりやすいでしょう。
この状態で、弓だけはしっかり持ったまま徐々に両肩の力を抜いていきます。すると、弓から弦に腕の重みが伝わって弦と弓の毛がたわみ、ぐらぐらして非常に不安定な状態になってきます。そのままもっと力を抜いていくと、弦と弓の毛の間の摩擦力が重みに耐えきれなくなり、自然に弓が動きだして音が鳴ります。「落ちる」という表現のほうがより近いかも。この時に出る音は、爆発音に近いものですが、私は本来その楽器の持っている最高の音質に近いものだと思っています。
上記の方法では、「弾く」という感覚はどこにも出てきませんが、重みののせ方はそのままで左右に弓を動かして音を出すのが「弾く」ということになります。右手の練習とは、まさにこの「重み」ののせ方のコントロール方法を習得することに他なりません
弓のどこを持つかは、上の写真を参考にして下さい。
まず、手のひらを下にして手首から先の力を抜きます。すると、自然にある程度指が開いた状態になります。その状態で弓を人指し指〜小指の手のひら側からあてて、反対の面を親指で支えます。大体中指と薬指の間に毛の付け根がくるように。親指は竿と毛箱の境目あたり、中指と薬指の向かい側くらい。感覚として、かなり手のひらの奥に突っ込んだようになります。この状態では、人指し指〜小指まで、弓の竿にあたっているはずです。弓に対する指(親指以外)の当たる角度は、4本ともほぼ直角となります。人指し指・中指は、弓の下側に巻き込んだりしない。小指もつっぱったりしない。親指の関節はつっぱらずに曲げたままにする。できるだけ手をぶら下げたままの状態に近い形で弓を持つことが原則です。
弓の先から元の方を見たときに、親指〜手のひら〜人指し指にかけてのラインが大体丸くなっており、その中に卵一つ入る位の空間ができていればよいです。親指付け根の関節がへしゃげてこの空間がつぶれているような持ち方は、腕の重みが支えきれなくなるので余りよくないです。
ボウイングの練習をしているうちに、弓の持ち方が崩れてくることがよくあります。その時のチェックポイントをいくつか挙げておきます。
1.では、親指が弓の竿の下側にもぐり込んでいないかを確かめます。弓の竿は大体8角形で、はじめは側面を持っていても、重さがかかると指が滑って竿の下側にもぐりこみやすいです。親指が弓の下に入ってしまうと、弓が不安定になり、腕の重みが乗らなくなります。音も芯がなくなってきます。
2.の人指し指の接点ですが、弓の元で弾いてているときと先で弾いているときで、人指し指が弓に当たっている場所が違っていないかどうかを確かめます。基本的には、大体第1関節の部分で支えているはずです。弓がしっかりと持てていないと、元と先で場所がずれてきて、弓先で弾いている時に指が第2関節近くまで深く入ってしまうことがよくあります。こうなると、腕の重みが支えきれず、音がやせてきます。
3.は、2.の項目とも関係があります。弓がしっかり持てていて腕の重みをきちんと受け止めることができれば、弓元でも弓先でも弓の持ち方は同じはずです。つまり、手の甲の角度も変わらないはずです。しかし2.のように持ち方が崩れてくると、手の甲が弓先の方へ傾いてきてしまいます(人指し指が深く入り込み小指が弓から離れた状態)。こうなると音がやせてくるので、無理やり人指し指で弓を押さえつけて音を出そうとする傾向がよくみられます。これでは、ますます持ち方が崩れ、音もつぶれてしまいます。
はじめのうちは腕の重みに耐えきれなくて当然だと思います。腕の重みを支えるために、弓を持っている手首〜指にかけて力が入っていてもよいのではないでしょうか。ただ、その時にも腕・肘・肩の筋肉はできるだけリラックスさせるようにしないといけません。各々の筋肉を独立してコントロールできるように気をつけて練習しましょう。弓がしっかりと持ててきたら、余分な力を少しずつ抜いていけばいいのです。
上記のように弓を持った状態で、もう一度「右腕の重さののせ方の練習」と同じことをやってみます。軽く持っているだけでは腕の重みが支えきれないので、はじめのうちは指だけは力を入れてもよいです。腕の重みがのるに従い、親指に大きな力がかかってくるのがわかると思いますが、それで正常です。腕の重みが十分のってくれば、自然に音が鳴るはずです。
C線で音が出るようになったら、次に他の弦でも練習します。C線以外の弦では、その弦を弾くために一定の角度を保たなければならないので、「落ちる」感覚だけでは音は出ません。重みをのせる感覚は同じですが、それぞれの弦を弾くための弓の角度を保たなければいけません。その上でひじを右横に動かすと、音が鳴るはずです。これも、はじめは握った持ち方から練習するのがよいと思います。はじめのうちは余りたくさん弓を使おうとせず、楽に使える範囲(大体弓元10cm前後)で練習し、段々と使える範囲を広げていけばよいです。
弓を動かすときは、常に弦と直角になるのが理想です。音を出す効率から考えると、直角が一番効率がいいのは、考えてもすぐにわかります。しかし、実際に弾くとわかるのですが、これが意外と難しいものなのです。はじめのうちは、元弓では先が上にあがり、先弓では元が上にあがってしまうことがよくあります。これがいわゆる円形ボーイングです。ボーイングを円形にならないようにするには、鏡を見ながら練習するのが一番です。
あと、補助者がいれば別の方法でも練習できます。まず、弓先を弦に直角に当てて補助者に持ってもらいます。弓の位置はそのまま持ってもらい、その弓の竿の上で自分の手を滑らせます。こうすると、重みはかかっていないものの弓を動かす軌跡だけは正確にたどれます。この練習で右手の動きに違和感を感じるときは、普段のボーイングがどこかで曲がっていることになります。この練習だけでも、自分のボーイングの角度を認識するには十分効果があります。
弓元からダウンで弾き始めるときは、まず肩〜肘から動かしはじめ、手、弓はそれに引っ張られてあとからついてくるような感覚で動かすようにします。決して弓を持っている手の部分から動かしはじめないこと。腕の余分な力が抜けていれば、手から動かしはじめることはほぼ不可能です。一番大きく動いている関節は、肩の部分です。
弓の真ん中あたりになると、肩関節だけでは弓の角度を維持できなくなるため、肘の関節を大きく動かすようにします。肘〜手首の部分で手、弓を引っ張っているような感覚とでもいえるでしょうか。
弓の先になると、いよいよ弓の角度を維持するのが難しくなります。手首を自分からみて向こう側に押したような状態になっている人をよくみかけますが、これはおすすめできません。手首を押すと、親指付け根の関節がつぶれ、腕の重みがのらなくなってしまいます。手首は押さず、腕の動きで弓を動かすのが基本です。
弓先からアップで弾きはじめるときは、まず肘〜手首を動かしはじめ、手、弓があとからついてくるような感覚になります。弓元に近くなれば肩〜肘の動きが大きくなってきますが、動かすのは肘〜肩で、手の部分はあとからついてくるのみです。
弓元の部分で腕の重みをのせるのは比較的簡単ですが、弓先にいくほど重みがのらなくなってきます。弦と弓毛との接触点が重みをのせる部分(毛箱周辺)から離れていくわけですから、当然重みをのせたときにボウイングの形を維持するのが難しくなってきます。また、形を維持しようとすると、重みがのらなかったり筋力でおさえつけてしまったりすることも多いです。
弓先で弾くときに弦に腕の重みを伝えようとすると、何らかの形でねじれの力が働きます。ねじれの力をかけて、かつボウイングの形を維持するためには、どこかでそのねじれの力を支えてあげることが必要です。弓は、しなりはしますが言うなればただの棒です。この棒を水平にして片端を何かにのせて、もう片方の端を指で持って腕の重みをのせたと考えると、重みを支え、伝えるのは指の役割です。ねじれの力もここで支えます。
重みを伝えるためにねじれの力が働くのは確かですが、手首をねじって人指し指を押さえつけるようにして弦に力をかけている人をよく見かけます。確かに力はかかるのですが、手首〜指の筋肉で弦を押さえつけているために、つぶれた音になってしまいます。
弓先では、まず弓元の時と同じように腕の重みをのせ、その重みを指で支えた結果でねじれの力が生じるような重みのかけかたをします。もっとも、このためにはかなりの訓練が必要です。重みを支えることができるだけの指の筋力(特に親指)がないとできません。はじめのうちは、無理に弓先まで使おうとせず、段々と使える範囲を広げていくのがよいでしょう。
弓の重心付近を弦の上に置き、普通に指で弓を持って「右腕の重さののせ方の練習」と同じことをやってみます。C線でするのがやはり簡単でしょう。このときにうまく音が出たら、弓を置く位置を段々先のほうにしていき、同じように練習します。
普通は、最初から、またある位置から、うまく重みがのらなかったり弓の角度(移弦方向の)が維持できなくなったりします。このときは、誰かに補助をしてもらって練習する方法があります。
弓の重心付近または上記の事がうまくできなくなる位置を弦の上に置き、上記と同じようにします。補助者のいる場合は、G線かD線がよいでしょう。この時に、弓の先の方を補助者に上から支えてもらって、弓の角度(移弦方向の)を維持してもらいます。補助者は、弓先を固定するのではなくかかってきた力を受け止めるだけにします。腕の重みがのるにしたがい、補助者もその重みを支える力が大きくなってきます。弓が折れそうなくらいしなっている状態になりますが、弓は折らない程度に少しは加減をしてください(補助者へのお願い)。
この状態で、補助者が演奏者の肘を左右に動かすと、弓元で出すのと同じような音が出ると思います。実際に演奏するときは、これくらいの重みを一人でのせて弾くことになります。
ここまでできたら、次に補助者のささえを徐々に小さくしていきます。その分の力は、自分の指で支える練習をします。実際には、補助者が、支えている力を段々抜いていき、演奏者は弓の角度、形が崩れないよう補助者の抜いた力分だけを指で支えます。この時に気をつけるのは、形を維持するために方〜腕〜手首に余分な力を入れないことです。かかってきた力を支えるのは、あくまでも手のひら〜指にかけての部分です。また、人指し指で弓を押さえて形を維持しようとするのもいけません。弓を支えた結果として人指し指に重みがかかるだけです。感覚としては、親指に最も大きな力がかかっており、次いで人指し指にかかっているのが普通だと思います。
開放弦等でボウイングの練習をするとき、まず気をつけることが、「均一な音が出ているか」ということです。「均一な音」というのは、出始めから終わりまでほぼ同じ音量、音質、音高である音のことです。つまり、弓の元から先までどごでも同じような音を出せるようになるための練習ということになります。
まず音の出だしです。かすれず、雑音を出さず、しかもはっきりと発音するようにします。発音したら、そのあともその音量、音質のままで音を出します。
音の出だしでは、気をつける点がいくつかあります。
等です。(1)の場合は、発音のあとで重みが逃げてしまっている場合に多いようです。「「中〜先弓での重みをのせる練習」をするとよいでしょう。(2)の場合は、発音のときに重みがのっていない状態です。「右腕の重さののせ方の練習」からするとよいでしょう。(3)の場合は、発音の時に弓をおさえつけて力をかけているときに多いです。「右手の練習の前に」の練習で、肩〜腕の力を抜く練習をすればよいでしょう。
発音のあと、音を持続させている時にも、いくつか注意点があります。
等です。(2)(3)は、目に見えるので注意しやすいのですが、本当に気をつけるのは(1)です。弓の駒からの距離やスピードが変われば、当然音量・音質が変化するからです。
反対に、(2)(3)ができていても、音量や音質が変わることも多々あります。よくあるのは、弓の先にいくほど音質が荒くなる、音がつぶれるといったことです。弓の先の方は、手で持っている部分から遠いため、重みがのりにくくなります。それでも(2)(3)を維持しようとするあまり、指や手首・腕の力で弦を押さえつけると、そういう音がしてしまいます。これは出てきた音を聞かないと分からないので、最初は判断が難しいかもしれませんが、上手な人の演奏を聞いたり、つぶれた音も響く音も両方出せる人に色々弾いてもらったりして耳を肥やすと、自然に分かってくると思います。弓先で音がつぶれる人は、「中〜先弓での重みをのせる練習」をじっくりするとよいでしょう。
弓で弾いて音を出すときには、その音量、音質を決定するものとして、主に次の3つの要素が関係します。
この3つの要素は、音を出している間じゅう微妙なバランスを保っており、その一つでもバランスを崩すものがあると、雑音を発したり、滑って音が出なかったり、弓が止まってしまったりします。
他にも、弓と弦の角度や左手の押さえ方も関係してきますが、他項目で述べます。
重みを大きくかけて弾くときは、弓のスピードが同じならば、より駒に近い位置で弾くとバランスがとれます。駒からの距離が同じならば、スピードをよりはやくして弾くとバランスがとれます。どちらの場合も、音量はより重くなります。
重みを少なくして弾くときは、重みをかけたときの逆になります。駒からより遠い位置で弾くか、スピードを遅くして弾くとバランスがとれます。どちらの場合も、音量はより軽くなります。
重みのかけ方は、主に音の重量感に影響してきます。
弓のスピードをあげて弾くときは、かける重みが同じならば、より駒から遠い位置で弾くとバランスがとれます。駒からの距離が同じならば、重みをより大きくかけるとバランスがとれます。どちらの場合も、音にスピード感がでます。
弓のスピードを遅くして弾くときは、速くしたときの逆になります。より駒に近い位置で弾くか、重みを軽くして弾くとバランスがとれます。どちらの場合も、音のスピード感は緩みます。
弓のスピードは、主に音のスピード感に影響してきます。
弾く位置を駒に近づけたとき、弓のスピードが同じならば、かける重みをより大きくするとバランスがとれます。かける重みが同じならば、よりスピードをゆっくりにするとバランスがとれます。どちらの場合も、音質がより厚くなります。
弾く位置を駒から離したとき(指板に近づけたとき)は、駒に近づけたときの逆で、よりスピードを速くするか重みを軽くして弾くとバランスがとれます。どちらの場合も、音質が薄くなります。
駒からの距離は、主に音の密度に影響してきます。